青い大学ノートに手書きで「交換ノート」と書かれている。
3.絶叫
どれだけ泣き叫んだだろうか。
何度も胃の中にある何かを吐き出し、周りを紫色に染めた。
体の中で分泌する青色の毒が食べたものを一瞬ですべて溶かし、吐き出した。
血溜まりだった所に青い毒の吐瀉物が混じり、紫色に染めていった。
僕は虫に取り込まれ、体を破壊されながら彼らを食べてしまったのだ。
胃の中が空になるまで吐ききると、突然パックリと額が裂けたのだ。
一瞬何が起こったのかわからないでいると、シャワーのように額から血が噴出した。
その血は紫色をしていて、地面や草木を熔かしていた。
鼻につく匂いで意識が鮮明になる。
『……ふム……。』
声の主は自分ではなかった。
森の奥から出てきた声の主は、ひょろ長い容姿で短めの整った髪。
燃えるような赤の瞳。
吸血鬼――……その長い牙を見たときに確信した。
『強い酸性の毒ダ。神経系には影響は見られないガ、これハ……SeriousProblem』
助けを求めようとは思ってなかった。
絶望とは文字通り、望むことなど何もない。
いっそ問題を追及される前に殺してほしかった。
『Ignition』
青白い吸血鬼の手が伸びて、背中をつかまれて、持ち上げられた……気がする。
もう何にも驚かないつもりだったが、自分の体を見て愕然とした。
両腕と両足が付け根からさっぱりなくなっていた。かつて腕や足があったところからは赤紫色の何かの液体が流れ出ている。
まるで蟻に四肢を噛み千切られた蝶々のようだった。
うっかり笑いそうになると、吸血鬼の人が僕をマントでくるんだ。
『……誰……なの……。』
『Ven=Arcadia』
『……ヴェン?』
『喋るナ』
『…………。』
僕はそこで力尽きた。
―――――。
酷く疲れて、すごく眠った気がする。
布団の暖かさを感じながら、小さな物音で僕は目覚めた。
『……ミイラ。』
最初に抱いた感想はそれ。漫画でしか全身包帯というのは見たことがなかった。
体が固定されてまったく動かない。
しかし悪いことばかりでもなかった。
『……足……。………手も……?』
まったく動かせないが微かな感覚があった。
指の先までついていることがわかる。
本当は先ほどのことは夢だったのではないかと思うほどだった。
『起きたカ。』
『……あ。』
夢ではない。やはり自分はあの時この男に出会っていた。
しかし彼が医者のところへ運んでくれたのだろうか?
そうなれば彼は命の恩人だ。礼を言わなければならない。
『あの……ありがとうございました。』
『あア。』
『……ここは……どこ?』
『俺の家ダ』
『家……?』
『お前は俺が治しタ』
驚いた。
喋る合間に見える彼の唇には吸血鬼特有の牙があった。
なぜ吸血鬼が人を助けるのか……
そもそも医者だと?
僕は思考が追いつかないでいた。
『あそこで何をしていタ』
しかも、そんな僕にあろうことか事情聴取をしてきたのだ。
ぼんやりしててなかなかあの時のことを思い出せない。
刹那ばかり浮かび上がる。どう思い返しても、いい思い出ではない。
『………。』
『何か聴きたいことがありそうだナ。』
『……この、手足は……?』
『………。』
それを聞くなり、彼の表情は固くなった。
まるでいけないことを質問してしまったときのような表情で、彼はゆっくり口をあけた。
『それを答えるにハ、俺の質問に答えなければいけなイ。』
『もう一度聞ク、あそこで何をしていタ。共にいたのは誰ダ。』
『………。』
『答えロ。』
『………神様のお家を壊した。一緒にいたのは、僕をいじめてたやつら……。』
『そうカ。』
『あの……答えました。次は僕の質問に答えてください。この腕……』
『そのいじめっ子とやらの腕ダ。』
さっと血の気が引いた。
瞬間、フラッシュバックする映像には吹き飛んだ四肢と人間を味わう自分の姿が走った。
彼はおもむろに僕の腕の包帯を外すと、見慣れない腕がそこにあった。
『ならばつまリ、お前の食べかすと言うわけカ。』
腕には知らない痣、ボールペンで書いたメモや日焼けの跡があった。
腕の付け根にはまるで毟り取ったような痛々しい縫合の跡がある。
きっとこの調子で腕と足が全部彼らのもので蘇生されたのだ。
永遠に消えることのない、罪の刻印をオマケして―――
4.意味
『耳は合成樹脂で作ったスペアダ。良いものがあったら付け替えてもらえばいイ。』
鼻が溶け落ちなかったのは奇跡的らしい。
なくなった耳の代わりに、エルフがつけてそうな耳がついている。皮膚と同化させたため、引っ張っても抜けない。
今僕の額には、あの時ボスがつけてたバンダナがある。
どんな作用か知らないが、紫に染まったこのバンダナには毒を押さえる作用がある。
毒を操り、毒虫を生み出す能力を駆使するのには時間がかからなかった。
強くなる必要があった。剣を知り、武術を学び、この毒をいつか捨てきれるようにと。
毒の消し方はあのヴェンでも知らない。僕だってもちろんわからない。
でも、強くあればこの毒を使うこともないだろう。
たくさん泣いて、叫んで、悔やんでも、自分を責めても、誰も戻ってこなかった。
今は前を向こう、受け入れてくれるところがあるならどこまででもいこう。
地獄のようなリハビリを始め
それから4年経った―――。
『剣術や柔術はともかく、強くなることは毒を打ち消す第一歩だった……。』
自分の血液に充満する毒素は赤血球とは分別される。
できる限り心臓に刺激を与えて血液の供給を図る。
人間はもともと毒素を体外に放出する機能をいくらでも持っている。
そうすることで順調に毒は抜けて、健康体へと戻っていった。
それと恋。あれほどに自分の血液を循環させる行為はなかった。
恋をする間に意図せず毒素を押し出していたのだ。
あの日から変わり、表情にも明るみが出て、性格が活発になり始めた。
『………けれど……。』
それはそれだ。今更故郷に顔向けもできないし、できれば思い出したくもない。
故郷なんてなくていい。きっと彼女の故郷で時間をかけよう。
帰る場所がある、それだけでいい。
『……ああ、もうこんな時間じゃないか。』
せっかく書いておいた手紙を届ける前に考えにふけってしまった。
きっと今日も笑顔で迎えてくれる。きっと、いつまでも一緒にいてくれる。
君の鼓動がボクを生かして、ずっと強くするんだよ。
ね、クロウリアさん。
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