青い大学ノートに手書きで「交換ノート」と書かれている。
その日は晴れ。
しかし太陽が出ているとは思えないほどに冷え込んだ空気。
視界一面を覆うほどの湖は今、煌びやかな光沢を放っている。
森を抜けた位置に属するこの湖は気温も低く、この季節は5度を上回ることはない。
日が昇るにつれ集まり始める人々――
ここ天然スケート場では、時折こういったスケートを楽しむ人々が集まる。
地主が無料で提供しているため、スケート靴を持参する者もしばしば。
無邪気に滑ったり雪合戦をしている人々の中に、琉璃とクロウリアの姿があった
お互い思いの篭った装飾品を髪や胸につけている。
『こんな風に遊びに来るのはとても久しぶりですね。』
『はいっ♪ あ、でもスケートははじめてなので、おてやわらかにおねがいします…!』
健気ながらもどこか不安色を隠せないクロウリアの表情に小さく笑って見せる琉璃。
彼らはスケート靴を持っていないので動きやすい靴で滑る様子。その方が楽だと思っていたのだろう。
クロウリアに、大丈夫ですよと(自分なりに)頼りある表情で応え、氷面に一歩踏み出す。
しかし制御が利かないすべり具合に琉璃は戸惑うことになる。
『わ、わ!?と、と、と、と……っ』
『Σわわ、わ、琉璃さんっ!?』
何処に着くことも出来ない両手が空をさまよい、何か奇妙なパラパラを踊ってるようにも見える。
下手なパントマイムに見えないこともないが、バリ○ードみたいだとか思っちゃいけない。
そんな琉璃の様子を見てか中々氷に一歩を踏み出せないクロウリア。
あわあわと両手をバタつかせてどうしようどうしようと意味もなく左右に首を振る。
親の仇でも見つけたような表情で琉璃は懸命に足場と戦う。
『よ…っとぉ…っとと…よ…し……。』
体重をかけるバランスのこつを掴んだのか、ちょっと内股だが何とか立ってられるようになった。
こう、初めて自転車に乗れたときのような感動に浸りながらつつっと滑ってみる。
滑って
つるるりっ
『あだっ』
漫画のような動きで滑ってしりもちをつく琉璃。
ついでに緊張も千切れたのかそのまま大の字になってしまう。
『るりさあああΣあああああん!?……』
それを見かねて救助に向かったシスターが、何故か琉璃の横をマッハで通り過ぎていった。
走り出してきたはいいけどもとまれない。クロウリアの視界の端で真っ青になる琉璃。
こう、発車する電車に乗ってる息子を見送る母親的な情景によく似ている。立場逆だが。
そのとき琉璃は、オリンピックのスピードスケートもびっくりなスタートを演じた。
転んだ状態から犬掻きのように氷を引っかいて走り出す。滑ってるのか走ってるのか解からない。
滑り続ける涙目のクロウリアの両手を掴むと、踵だけで立ってブレーキをかける。
次第にスピードを緩めながらふうと息を吐く。
まさにカーリング状態だったクロウリアはすみませんすみませんと顔を真っ赤にして謝っている。
『大丈夫ですよ。すみません、僕がみっともないことしちゃったばっかりに……』
『そ、そんなことないですっ!たすけにきてくれるところもかっこ良かったですし…!』
そっかなと照れてみる琉璃に、もちろんです!と両手拳をぐっと握って見せるクロウリア。
その両手を琉璃が両手で握る。
『それじゃ、練習しましょう?せっかくきたんですから、滑れるようになりましょう』
『あ、はいっ♪ご指導よろしくおねがいしますっ』
最初からこうする予定だったのだけど…なんだか遠回りになってしまった。
小さく苦笑する琉璃の表情を、まるで元気付けるように微笑むクロウリア。
―ドンマイです♪―
『それじゃ、右足から…体重を足ではなく、体全体にかける形で…そうそう。』
『け、けっこうむずかしいんですね……Σはわわぅわわっ』
『大丈夫です……?そうそう、いい感じです。いちに、いちに…』
『いち…に…いち…はわわっ』
転びそうになるときは琉璃ががっちり足場を固定してクロウリアを支える。
それが両手を取った状態から、片手へと変わり――
ぎこちないながらも、一様に滑れるようになった
『わ、わ。みてくださいっ、できました!』
一度滑れればカーブだってブレーキだって出来る。
琉璃もその上達振りに驚き、笑顔で拍手を送っている。
まったく滑れない状態から自由に滑れるようになったのが嬉しいのか、表情にも…油断にも表れる。
天然スケート場は凸凹が激しい。氷の突起に靴のつま先を思い切り躓かせる。
とっさのことで悲鳴も出ないクロウリアは、まるで氷の床が起き上がるような錯覚にとらわれた
『はわっ!』
口から悲鳴が漏れたのは、氷の世界にキスしてしまったからではない。
暖かくて身に覚えのある香りのあるマフラーに顔を突っ込んだからだ。
琉璃が少し後ろにつんのめる形でクロウリアを抱きかかえている。
自分も転びそうになりながらも支えているという状態。
お世辞にも格好いいポーズとはいえない――足ぷるぷるしてるし。
『大丈夫…ですか?』
『すすすみません!たすかりました…』
さっき助けたときもこう聞くべきだったよねえとかぼんやり思いながら、腕の中のクロウリアへ問う。
また助けられてしまった恥ずかしさよりも、抱きしめられているという事実の方を意識しているクロウリア。
ちょっとだけ震えてるクロウリアの背中を撫でて、そおと体を離す。
『それじゃ…一緒に滑りましょう?』
『…はい♪喜んでっ』
かくして二人は、一人で滑るよりもハイレベルな、手繋ぎスケートというものを昼下がりまで楽しんでいた。
次はスケート靴もってこよう!と固く心に決める少年がいたとかいないとか……
by 琉璃
しかし太陽が出ているとは思えないほどに冷え込んだ空気。
視界一面を覆うほどの湖は今、煌びやかな光沢を放っている。
森を抜けた位置に属するこの湖は気温も低く、この季節は5度を上回ることはない。
日が昇るにつれ集まり始める人々――
ここ天然スケート場では、時折こういったスケートを楽しむ人々が集まる。
地主が無料で提供しているため、スケート靴を持参する者もしばしば。
無邪気に滑ったり雪合戦をしている人々の中に、琉璃とクロウリアの姿があった
お互い思いの篭った装飾品を髪や胸につけている。
『こんな風に遊びに来るのはとても久しぶりですね。』
『はいっ♪ あ、でもスケートははじめてなので、おてやわらかにおねがいします…!』
健気ながらもどこか不安色を隠せないクロウリアの表情に小さく笑って見せる琉璃。
彼らはスケート靴を持っていないので動きやすい靴で滑る様子。その方が楽だと思っていたのだろう。
クロウリアに、大丈夫ですよと(自分なりに)頼りある表情で応え、氷面に一歩踏み出す。
しかし制御が利かないすべり具合に琉璃は戸惑うことになる。
『わ、わ!?と、と、と、と……っ』
『Σわわ、わ、琉璃さんっ!?』
何処に着くことも出来ない両手が空をさまよい、何か奇妙なパラパラを踊ってるようにも見える。
下手なパントマイムに見えないこともないが、バリ○ードみたいだとか思っちゃいけない。
そんな琉璃の様子を見てか中々氷に一歩を踏み出せないクロウリア。
あわあわと両手をバタつかせてどうしようどうしようと意味もなく左右に首を振る。
親の仇でも見つけたような表情で琉璃は懸命に足場と戦う。
『よ…っとぉ…っとと…よ…し……。』
体重をかけるバランスのこつを掴んだのか、ちょっと内股だが何とか立ってられるようになった。
こう、初めて自転車に乗れたときのような感動に浸りながらつつっと滑ってみる。
滑って
つるるりっ
『あだっ』
漫画のような動きで滑ってしりもちをつく琉璃。
ついでに緊張も千切れたのかそのまま大の字になってしまう。
『るりさあああΣあああああん!?……』
それを見かねて救助に向かったシスターが、何故か琉璃の横をマッハで通り過ぎていった。
走り出してきたはいいけどもとまれない。クロウリアの視界の端で真っ青になる琉璃。
こう、発車する電車に乗ってる息子を見送る母親的な情景によく似ている。立場逆だが。
そのとき琉璃は、オリンピックのスピードスケートもびっくりなスタートを演じた。
転んだ状態から犬掻きのように氷を引っかいて走り出す。滑ってるのか走ってるのか解からない。
滑り続ける涙目のクロウリアの両手を掴むと、踵だけで立ってブレーキをかける。
次第にスピードを緩めながらふうと息を吐く。
まさにカーリング状態だったクロウリアはすみませんすみませんと顔を真っ赤にして謝っている。
『大丈夫ですよ。すみません、僕がみっともないことしちゃったばっかりに……』
『そ、そんなことないですっ!たすけにきてくれるところもかっこ良かったですし…!』
そっかなと照れてみる琉璃に、もちろんです!と両手拳をぐっと握って見せるクロウリア。
その両手を琉璃が両手で握る。
『それじゃ、練習しましょう?せっかくきたんですから、滑れるようになりましょう』
『あ、はいっ♪ご指導よろしくおねがいしますっ』
最初からこうする予定だったのだけど…なんだか遠回りになってしまった。
小さく苦笑する琉璃の表情を、まるで元気付けるように微笑むクロウリア。
―ドンマイです♪―
『それじゃ、右足から…体重を足ではなく、体全体にかける形で…そうそう。』
『け、けっこうむずかしいんですね……Σはわわぅわわっ』
『大丈夫です……?そうそう、いい感じです。いちに、いちに…』
『いち…に…いち…はわわっ』
転びそうになるときは琉璃ががっちり足場を固定してクロウリアを支える。
それが両手を取った状態から、片手へと変わり――
ぎこちないながらも、一様に滑れるようになった
『わ、わ。みてくださいっ、できました!』
一度滑れればカーブだってブレーキだって出来る。
琉璃もその上達振りに驚き、笑顔で拍手を送っている。
まったく滑れない状態から自由に滑れるようになったのが嬉しいのか、表情にも…油断にも表れる。
天然スケート場は凸凹が激しい。氷の突起に靴のつま先を思い切り躓かせる。
とっさのことで悲鳴も出ないクロウリアは、まるで氷の床が起き上がるような錯覚にとらわれた
『はわっ!』
口から悲鳴が漏れたのは、氷の世界にキスしてしまったからではない。
暖かくて身に覚えのある香りのあるマフラーに顔を突っ込んだからだ。
琉璃が少し後ろにつんのめる形でクロウリアを抱きかかえている。
自分も転びそうになりながらも支えているという状態。
お世辞にも格好いいポーズとはいえない――足ぷるぷるしてるし。
『大丈夫…ですか?』
『すすすみません!たすかりました…』
さっき助けたときもこう聞くべきだったよねえとかぼんやり思いながら、腕の中のクロウリアへ問う。
また助けられてしまった恥ずかしさよりも、抱きしめられているという事実の方を意識しているクロウリア。
ちょっとだけ震えてるクロウリアの背中を撫でて、そおと体を離す。
『それじゃ…一緒に滑りましょう?』
『…はい♪喜んでっ』
かくして二人は、一人で滑るよりもハイレベルな、手繋ぎスケートというものを昼下がりまで楽しんでいた。
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